この照らす日月の下は……
06
「でも、どうしてキラは男の子なんですの?」
女のこのままでいいのではないか。コーディネイターはどうしても男性の方が多いから数少ない女性は大切にされるはず。少なくともプラントではそうだ。
「んっとね。月でコーディネイターの女の子がたくさん誘拐される事件があったの。だから、パパがこっちに来るって決まったときにサハクのミナさまとギナさまが僕を男の子にした方がいいっておっしゃったんだって」
IDの偽造もサハクが手伝ってくれたのだと聞いた。そう付け加える。
「……そうなのですか」
嫌ですわね、とラクスはつぶやく。
「でも、みんな心配して顔を見に来てくれるから」
それは嬉しいことだ、とキラは笑う。
「滅多に会えないし、ボクだけじゃ会いに行けないもん」
「そうですわね。わたくしもお母様が連れてきてくださったからキラに会えましたわ」
キラの言葉に納得した、とラクスはうなずく。
「ママはラクスのお母さんに会いに行きたいけど無理だって言ってたし」
ナチュラルがプラントに行くのは不可能に近いから。キラはそうつぶやくように続ける。そう口にしたときのカリダの表情を思い出したからだ。
「ちゃんとお話しすればいい人か悪い人かわかるはずなのに」
「キラの言うとおりですわ」
ラクスはそう言ってうなずく。
「でも、私たちの声に耳を貸してくださらない方もいます」
悲しいことですが、と彼女は続けた。
「それでも、歌なら聞いてくださる方もいらっしゃいますわ」
ふっと微笑むとラクスはそう言う。
「わたくしもお母様のようにみんなに聞いていただけるような歌を歌えるようになりたいですわ」
きっぱりと言い切った彼女にはきっと、自分が進むべき道が見えているのだろう。
「ラクスはすごいね」
キラは素直に自分の感想を口にした。
「すごいわけではありませんわ。わたくしの場合、すぐそばにお母様というお手本がいてくださったからですもの」
ラクスはこう言って微笑む。
「歌! そうだ。ラクスはどんな歌を歌うの?」
聞かせて、とキラは彼女を見つめる。
「そうでしたわ。キラに歌って差し上げる約束でしたわね」
「うん。僕もいくつか覚えてきたよ。でも……あんまり上手じゃないかも」
カリダの音楽の才能は自分には受け継がれなかったらしい。キラはそうつぶやく。
「あら。歌は楽しく歌うものですわ」
うまい下手は関係ない、とラクスは言い切る。
「お仕事にしているわけではないのですもの」
「そう言うものなの?」
「お母様はそう教えてくださいましたの。ですから、キラが楽しいと思う歌を歌ってくださいませ」
彼女の言葉には不思議と『嫌だ』と言わせない空気がある。
「……ラクスの後だと歌えなくなるかもしれないから、先に歌うね」
約束もしたし、とキラは付け加えた。
「えぇ」
ラクスがうなずいてくれたのを確認して、キラはいつも見ている子ども向け番組の主題歌を歌い始める。
カリダが聞かせてくれたラクスの母の歌のようにきれいではない。でも、歌っているだけで元気が出てくるのだ。
だから、ラクスにも聞いてほしい。
そう思って選んだ曲だ。
リズムを狂わせることも音を外すこともなく最後までなんとか歌いきる。
「楽しい曲ですわ」
拍手と共にラクスがこう言ってくれた。お世辞でも嬉しいと思う。
「うん。僕が一番好きな曲なの」
「それは。是非とも覚えないといけませんわね」
もう一度聞かせてください、と言われてキラは小さくうなずく。そして、最初から歌い出す。それに重ねるようにラクスがメロディーをハミングする。
やがて部屋の中に二人の声が響き渡った。